峠越え 地蔵菩薩の 苔蒼し
高野熊野参詣道旅 5日目 小辺路ルート 3日目 三浦峠 〈三浦口〜十津川温泉〉
今日もいい天気。
蛙の声を聞きながら眠りに堕ち、眠りの浅瀬で響く蛙の声にまだ夜が明けてないことに悦び、携帯のアラームで朝を迎えた。
ご主人は、朝食リクエスト時間6:30に合わせての朝食作りとお弁当作りに朝3時起きすると言っていた。
そんなに早起きでなくても大丈夫でしょ、って私とご主人のお母さんと言ってたのに、多分予定通りに起きて作ってくれたんだ思う。
6:00に起きて行ったら、もう出来上がっていた。
朝食も品数多く、心のこもったお料理を出してくれた。季節のものとか。久しぶりに納豆が出てきてそれも感激だった。今時は、なければならなくなったとご主人。外国の方は好んでよく食べるとのこと。
そうか、ここは西だから、納豆文化じゃないんだと気づいた。
さあ、いよいよ出発。
外に出たら、こんな素敵な世界が広がっていた。
お母さんは膝にサポーターをつけて、シルバーカーを押しながら、古道入り口の途中までお見送りに来てくれた。
あの山を登って、峠の向こうに進んで行くんだよと。
山のてっぺんの方から崩落か、木がない斜面が見える山だった。
登り口から、登り坂が続く。木はうっそうとしている。何かの足跡があったり、何かの声が遠くに聞こえていた。今まで来た道のお山の中では普通のこと。
登り坂は続く。息も切れるし、ひと口づつのお水がとっても美味しい。
熊野のお水は美味しい。
だいぶ登ってきた。「三十丁の水」と案内がある。
古道からは少しだけ逸れるが、是非飲みたいお水。
近くまで行って、付くんだ。
音がする。
ヤバい、クマが威嚇している⁈
姿は見えないけど、音が。蛙のような、ケモノのような、変な音。
だって言ってた。一泊目の猟師のご主人が。
山の中で車の音が聞こえるはずがないのに聞こえてて、おかしいなって思っていたら、クマの威嚇の音だった。そおっと通ったら大丈夫だった。という話。
え〜、でもここのお水、私も飲みたいよお。私もお水飲みたいだけだから、許してよお。
怖くて、目が合いたくないから音の方をよく見ていなかったけど、勇気を出して見た。音はするけど、姿はない。
蛙が隙間から鳴いてるの?湧水の音?
長居はしない方がいい。小さな水筒に水を汲み、手を合わせて古道に戻った。
水は美味しかった。
この先を登っている時、さっきのような音が近くに聞こえ、そこはお水が沸いていた。
やっぱり、お水があるところにさっきのような音あり。
お水が湧くときの音なのか。生き物のような音がした。
不思議な気分で、山道を登りきり、三浦峠に着いた。
林道も通るひらけたところだった。
三浦口の方角の景色が開けていて、向こうに見えるは、昨日こちらを見ながらお茶した伯母子岳か。眼下に広がるはお世話になった五百瀬か。と、ふりかえり惜しみ、爽やかな冷たい風を感じながら、ここでコーヒータイムにした。
先を想うより、今まで来た道に想いを馳せていた。
さて、行こう。
あとは下り。
無心に細い道を抜け、左に湾曲したところを通った時、そこに何か強い気配を感じた。
ヤバい、クマ?
音はないけど、強い気配。
急ぎ足で身を低くして、私は通るだけ、許して〜と念じながら通った。
何か説明板もあるようだけど、今立ち止まれない。そちらに目を合わさないようにして。
通り過ぎて、気配がなくなった。
そうしたら、その説明板が気になった。
せっかく来たのに、スルーしていい?
私の中で問答が始まり、立ち止まって、振り返った。
そこには、蒼く苔に包まれた坐像があった。
何もいなそうだし、さっきの怖かった気配も消えたのでゆっくり引き返した。
静かに佇む地蔵菩薩様だった。(1番上写真)
怖いいわれも書いてなかったけど、今、正面でお会いしても悪い気持ちはないけど、さっきの気配はほんとに怖かった。
手を合わせた。
先に進む。
しばらくして矢倉観音堂があった。
集落の方々がお祀りしていると案内があった。だいぶ下りてきたのか。
ロープがかかっている坂を過ぎて行ったら、林道にぶつかった。
前には新緑鮮やかな大きな山が並ぶ、ひらけた明るい場所。
そこで、本日最初の方に出会った。民家の主人さん。
とても素敵な古民家だった。とても素敵な方だった。
私は、こんな素敵なところで暮らせていいなあ。とほんとに思って、何度も連呼してしまった。
ここでの暮らしを少しお話ししてもらった。
今日、十津川温泉に泊まる。
ここから、そこまでは歩きで約2時間。
バス道に出て、バスに乗れたら30分。
バスに乗るタイムスケジュールできたので、そうする。主人さんが、林道からバス停への入り道までお見送りにきてくれた。
その時、本日お会いした2人目の方が山からテント泊の装備で追い越していった。
主人さんとは、また絶対来たいと、お別れをした。
バス停では、少しだけ時間があった。ちょっとだけ離れたところに自販機があったけれど、水も残っていたし気にしていなかった。
よく見たら、その自販機には、ビールもあった。
あ〜飲みたい‼︎
んー、時間はジャスト。
勇気を出してバス停から離れ、お財布を開けた時、バスが現れた。
慌てて手を挙げて乗ることをアピールした。
無事にバスに乗れた。
バスの運転手さんは地元の方で、バス道も一台分の幅のところが多く、大変だと思ったので聞いてみたら、他府県のナンバーの方は分からないから、自分のバスがさがるんですって。すれ違う地元車の方は、みんな知り合いだった。大きい小学校があったけど、それはこの間廃校になったと。広く大きくひらけた川の工事場は、2本の川を一つにして、土砂の集積場だと。近年、豪雨の自然災害が多く、山の崩落土砂の置き場に困っていたんですって。
ふーん。胸が痛い。仕方ないけど。
しかし、自販機のビールも頭から離れなかった。
今日のお宿の最寄りバス停で降ろしてもらい、川沿いを歩いた。
間も無く、工事車両の運転手さんが出てきていたから挨拶した。本日3人目。
ちょっとこの辺の方じゃない雰囲気だったけど、威勢いい感じ。どこから来た?どこに行く?
まあ、そんなところから。俺もそこに行くから乗っていく?
ちょっと心が揺らいだけど、やめておいた。
歩き進んだら左手に野猿が。橋だよ。吊り橋。
ひえ〜、いよいよ登場‼︎
明日、この橋渡らなきゃ行けないの?
山を歩くのは苦じゃないけど、この橋渡りが、私の最大難関課題。
高所恐怖症。
今までの橋は何とかなった。短かったし、しっかりしていた。山のてっぺんの端っこ歩きも、下や脇を見ないで乗り越えてきた。
しかし、この「野猿」とか書かれてる橋。名前だけでヤバい。鉄製だけどロープで、脇はスースー。足場の幅は広めだったが。板で下も見えなかったが。脇はスースー。風、今までになく強く吹いてるよ。
無理でしょ。どうしよう。ここまで来て。明日はいよいよ本宮入りまで来たよ。
一気にブルーになる。
今晩は、その事で眠れなくなるのか。
宿に着き、早速心配事を打ち明けた。
小辺路ルートまで送ってくれる。橋を渡らなくても大丈夫、小辺路の登り口まで送ってくれるからと。
地元のその方も、怖いってわかってくれたし、今日は珍しく強風だとも言ってくれた。
ああ、安心して眠れる。
お食事も温泉もとても良かった。
もうすぐ満月。
白く輝く月が山の上に現れた。露天風呂から眺める。
いよいよ明日の峠が最後だ。
ここまで無事に来させていただきました。
ありがとうございます。
合掌。